小説 The Sea Beggars

  • 著者: Cecelia Holland (著), Braldt Bralds (イラスト)
  • 出版社: Amazon Services International, Inc.
  • 発行年月: 1982/4/12

G.A. ヘンティE. ハーの少年少女小説に続き、大人向け歴史小説読んでみました。まずはKindleで100円(プライム会員なら無料)の安価なものから。

セシリア・ホーランドはアメリカの歴史小説家。エジプトからSFまで幅広く作品を書いていますが、とくに多いのはヨーロッパ中世。作者は物語の舞台として比較的マイナーな主題を選んでいるようです。

この作品のモチーフとなる時代は、低地地方にアルバ公が来てから去るまでの間、と考えるとわかりやすいです。主人公は、作者の創作のファン・クレーフ一家、とくにその息子と娘それぞれの視点で二元的に話は進んでいきます。ファン・クレーフ氏はアントウェルペンに工場を経営する裕福なカルヴァン派の市民で、苦労をしたことのない奥方、反抗期の息子ヤン、箱入りの娘のハネケの4人で何不自由ない暮らしをしていました。低地地方の宗教的騒乱の解決のため、新執政としてアルバ公が派遣されてきてから、一家の運命は激変します。

ファン・クレーフ家は一般市民目線なので、それと対比となる幕間として、エグモント伯、ホールネ伯、オランイェ公、ナッサウ伯ルートヴィヒ、アルバ公父子などの史実人物(貴族)たちによる場面が途中に点在します。海で活躍するヤンは海乞食の指導者たちやエリザベス女王と、ドイツに亡命したハネケはオランイェ公兄弟と直接関わります。

読書メモ

レビューではかなりの好評価の作品ですが、いかに大人向けといえど、これでもかというほどの難題が次々と主人公たちを襲い、読むのにかなりパワーが要ります。以下ネタバレ。

アルバ公の恐怖政治の最初の犠牲は、父親のファン・クレーフ氏。ある日アントウェルペンの主だったカルヴァン派の市民たちは、まとめて逮捕され、拷問され、裁判も受けられずに絞首刑にされました。さらに財産も没収されたため、残された妻子は工場も住む家も失ってしまいます。この転落に耐えられないファン・クレーフ夫人は正気を失い、日々徘徊を繰り返すようになります。(はっきりとは書かれないものの、最終的には野垂れ死んでしまったんじゃないかと)。

息子ヤンは、「海賊に成り下がった」として父と絶縁状態にあった叔父ペーテルを頼ってニーウポールトへ向かい、そこで海賊稼業に入りました。やがてルーメイ、ファン・トレスロング、ソノイ等と協働し、イングランドのプリマスを拠点に私掠活動をするようになります。頭に血が上りやすい性格で好戦的な一面もありますが、育ちは良いため、ルーメイの粗暴で卑怯なやり口には疑問を持っているようです。

最も酷い目に遭うのが娘のハネケ。家の外にも出たことのない娘だったのが、働き口を探しては信教を理由にクビにされ、徘徊する母親の捜索と世話に疲れ、その他にもありとあらゆる試練にさらされます。あるきっかけで殺人(正当防衛ですが)まで犯してしまったハネケは亡命者としてドイツへ向かいますが、ある日働いている宿屋にオランイェ公兄弟が立ち寄ったことから、故郷へ戻り戦うことを決意します。

母と妹を見捨てて相対的に好き勝手やったように見えるヤンよりも、必死で生きることを模索したハネケのほうが報われないのが何とも読後感良くないのですが、「主人公だけうまく弾が避けてくれる」ような子供向け小説ばりのご都合主義がまったく無いところが、時代の空気を反映している作品ともいえます。とにかく出てくる人物はよく死にますし、死や暴力のシーンもかなり残酷に描かれます。

残念なのはオランイェ公ウィレムです。アルバ公がやってくると聞いて尻尾を巻いて逃げ出し、第一次侵攻も散々に失敗して、第二次侵攻を決意するもまだ若干ぐずぐずしている…という時期なので仕方ないですが、最終的にはハネケにも見捨てられてしまう程度には及び腰でいいとこ無し。もうちょっとカッコよくてもよかったかな。


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