小説 The Tower Clock Stopped 停まった時計

  • 著者: Jan de Haan (著), Hein Kray (イラスト), C Bonker (翻訳)
  • 出版社: Pro Ecclesia Publishers (2013/2/15)
  • 発行年月: 2013/2/15
  • サイズ: Kindle版
  • ページ数: 94p

読書メモ

子供向け歴史小説シリーズのひとつ。オランダ語版を英語版に直したもの、且つ、現在日本でかんたんに入手できるのはkindle版のみです。子供向けなのでそれほど長くなく、起承転結も明確、非常に読みやすくなっています。

「スライス攻囲戦の実話に基づいた物語」との内容説明しかなかったので、てっきり「反乱」時代のどこかかと思っていたら、なんと舞台は1606年。このサイトの中心年代の話、しかも実在の登場人物は、ナッサウ伯マウリッツとフレデリク=ヘンドリク(この2人が出てくるのは名前だけですが)、南ネーデルランド軍総司令官のスピノラ侯は台詞もあります。そしてなにより元祖『爆弾野郎』デュ・テライユ侯です。八十年戦争の中でも限りなくマイナーで嬉しくなってしまいます。

スライス襲撃(1606)は、このサイトの中でも個別記事は設けておらず、他記事内で2-3行程度しか扱っていません。スライス攻囲戦(1604)によってオランダ軍が手にした街スライスに、爆弾魔のデュ・テライユ侯が襲撃を仕掛けて失敗した、という事件です。襲撃のあらましとしては、本当にこれだけです。

もうちょっと詳しく書くと、危険人物デュ・テライユ侯はフランス人ですが、その火薬の知識を買われてスペイン軍で対オランダ戦に異様な意欲を燃やしていました。1606年3月、東部のブレーデフォールトで地雷を用いた奇襲が失敗し(ブレーデフォールト攻囲戦)、デュ・テライユ侯は同様の襲撃を今度は南部のスライスで敢行しようと、総司令のスピノラ侯に持ちかけます。前回の失敗を繰り返さぬよう綿密に策を練ったデュ・テライユ侯でしたが、街の時計の音を合図に街の両側から攻め入る、という作戦は、なぜか時計が鳴らずに失敗に終わってしまいます。これは実話とのことですが、なぜ時計が鳴らなかったのかははっきりした理由はわかりません。そこでこの物語では、スライスに住む教会管理人とその孫のエピソードを絡めて、この史実に創作の色を加えています。

あらすじ

教会管理人のマルティヌスはスライスの教会の時計を何十年も管理し、毎日欠かさず正確に鐘を鳴らし続けていました。スライスの街は2年前にマウリッツ公の軍隊によってスペイン支配から解放され、ほとんどの人々がオランダの統治下に置かれることを歓迎していました。しかし中には、洪水線術によって農地を失ってしまった農民ネリスのように、オランダ当局に批判的な者もいました。

ある日、デュ・テライユ侯のスパイが宿屋の親父に、フランス産の極上ワインと偽って火薬の樽を5樽売りつけます。同時にスパイは、オランダ軍に寝返っていたスペイン人の兵2名を唆して、彼らが夜勤番の日にオランダ軍守備隊の詰め所に放火させたうえ、火薬を街の門2ヵ所に密かに設置しました。守備隊長スリングスビーは、日頃から放火をほのめかしていたネリスを容疑者として拘束し、スペイン兵たちは焼死してしまったものと考えます。しかし、いつまで経っても彼らの遺体が見つからないことから、陰謀を疑うようになりました。が、この街の軍司令官ファン・デル・ノートは極度の楽天家ゆえ、スリングスビーの疑念を一笑に付して取り合おうともしません。

そんな中、詰め所焼け跡で戦争ごっこをして遊んでいた子供たちのうち、教会管理人マルティヌスの孫ハンスが、誤って転落して大怪我を負います。マルティヌスは生死の境をさまようハンスに付き添いましたが、3日3晩ほとんど寝られず疲れもピークになってしまいます。一方、着々と奇襲作戦を進めるデュ・テライユ侯は、スピノラ侯に借りたワロン軍を2つに分け、夜陰に紛れてスライスの街を目指していました。一方は自分が、もう一方はヒダルゴ隊長が指揮を執り、それぞれ街の2つの門前で待ち受け、鐘の音を合図に門を爆破して街の左右から同時に攻め込むことになりました。その日、マルティヌスはいつものように教会堂に向かいましたが、時計の整備をする前にうっかりうたた寝をしてしまいます――。


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